皆さんは競馬で颯爽と走る競走馬が骨折などの怪我をした姿を見た事はありますか?
競走馬はの脚はガラスのように弱いとも言われています。
しかし、その細い脚だからこそ競走馬は速く、走る事ができるのです。
レースでは、馬場が悪い中でも、凄いスピードで走る為どうしても怪我がつきものです。
今回はその競走馬の骨折について細かく紹介していきたいと思います。
目次
競走馬は骨折してしまう?
冒頭でも軽く説明しましたが、競走馬に脚は本当に弱いです。
競走馬の多くを占めるサラブレッドの足首(人間でいうとクルブシ)の部分は骨折やヒビが入りやすく、ガラスの脚とも呼ばれています。
競走馬の一般的な馬体重は400kg~500kg前後です。
通常時でも、ただ立っているだけで1本の脚で100kg以上を支えている事になります。
あの細い脚で、体重を支えている為、負担を相当のものでしょう。
競走馬はレース中に少し滑ってしまうだけで、骨折やヒビに繋がります。
馬は人間と違って、4足で生きる動物です。
しかも、骨折の状態によっては、今後レースにでる事は出来なくなります。
では、レース中や調教で骨折してしまった競走馬はどうなるのでしょうか。
今回はその部分を詳しく説明していきます。
残念ながら競走馬は骨折すると安楽死
非常に残念ながら、競走馬はレース中や調教中に骨折をしてしまうと、安楽死という形で殺処分されてしまいます。
この内容を聞くと、非常に残酷で、可愛いそうなどの感情が湧くと思う方が多いと思います。
しかし、これには多くの理由と、競走馬の最善を持って考えられています。
JRAなどの競馬に出場するサラブレット・競争馬が、足を骨折して、安楽死させたと言うニュースや報道を度々目にします。
ではなぜ、馬は骨折すると、安楽死(あんらくし)させるのか?
人間みたいにギブスをはめて、完治するのを待てないのか?
その理由を、簡潔に記載・説明してみたいと思います。
専門に獣医が「予後不良」決断
例えば、レース中に競走馬が骨折すると、その競走馬は走れなくなりコースの脇に避けて行きます。
騎手もすぐに競走馬の異変に気がつき、その場で競走馬から降ります。
その時に馬の状態はどんなものなのかという部分が重要になります。
状態によっては軽度な怪我で、少し休養を取れば治る場合もありますが、重度な怪我(複雑骨折)の場合は安楽死するかどうか?の判断をするのは、獣医師が診断する事になります。
競馬用語で「予後不良」(よごふりょう)と診断されると、安楽死させます。
診断する獣医師も、これが馬にとって、最善であると言う判断に至った結果が、安楽死と言う事になります。
馬のレース・競争中や、調教中などに、足を骨折したり故障した場合に、回復が極めて困難な場合には、その「予後不良」になります。
最善であると、判断した獣医の決断には意図があります。
もともと、競走馬の場合、1本の足に100kg~150kgもの負担が掛かります。
しかし、足は細長く、ヒビなどの故障・骨折が発生しやすいと言う特徴があります。
そして、1本の足だけでも、骨折しますと、その体重が、他の3本足に負担がのしかかることになります。
そうなりますと、健康な他の足にも、蹄葉炎(ていよう えん)、蹄叉腐爛(ていしゃふらん、ていさ ふらん)といった病気を発症します。
例えば、重量によって血行障害が発生して、蹄(ひずめ)の内部が炎症を起こし、骨折していない足も、次々に故障が発生するのです。
馬は、自分の体重を、常に4本の足で支えないと、生きていけないのです。
予後不良で安楽死させない事は出来ないの?
やはり、予後不良と判断されたのに、殺してしまうのは残酷で、可愛そうだから安楽死はさけたいと思うのが人間の性ですよね。
かつて、日本中央競馬会にて、春の天皇賞や、有馬記念を制したテンポイントが骨折した際には、馬主の意向で安楽死させずに、療養をしました。
33名もの獣医師が医師団を組んで手術を行い、もう命は大丈夫と言う保証も出たくらいでした。
しかし、結局は、骨折した足に体重がのしかかり、患部が腐敗して骨も露出します。
そして、蹄葉炎を発症し約5ヶ月後に自然死しています。
体重も500kgから、300kgまでやせ細っていたそうですので、治療と申しましても、馬にとっては壮絶な闘病生活になったことが伺えます。
他には、皐月賞と菊花賞を取った2冠馬のサクラスターオーも、有馬記念1番人気でのレースに無理に出走したことで競走中に足を故障して、競走中止しています。
この時は、骨折ではなく、靱帯断裂と関節脱臼でしたが、ファンの要望などもあり、せめて種牡馬にと厩舎での闘病生活に入りました。
しかし、その後、他の脚でも体重を支えきれなくなり、立ち上がろうとした際に、別の足に骨折が発生します。
ついには、自力での起立が不可能となり、ケガをしてから約5ヶ月後に安楽死の措置が取られました。
競走馬の最善の方法を取るのが懸命
上記の内容を見ても解るように、安楽死をさせる事は、馬にとって一番最善策という事が少しは解ると思います。
人間が病院に入院するように、おとなしく、ベットで寝かせていれば良いのでは?とも感じます。
しかし、馬には、毎日ずっと24時間、寝ていてねと話をしても、言葉は通じません。
本能的に馬は、立とうとしてしまいます。
そもそも、立ったまま、寝ることが多いくらいの動物ですからね。
仮に、横たわって、寝ているのが好きな馬であったとしても、体重が問題です。
寝たままですと、お腹周りの皮膚が、臓器や骨の重さで圧迫を受けて、人間で言えば床ずれのような状態になり、皮膚が重みに耐えられません。
ガリガリにやせてしまえば、骨が当たって、痛みも発します。
犬や猫は、体重が軽いので、たとえ足を骨折しても、寝ていれば大丈夫なのです。
しかし、馬の体重は400キロ以上あります。
できれば、怪我をしたとしても、余生を送ってほしいところではあります。
しかし、競走馬は、常に4本の足で体重を支えられないと、生きていけないのです。
骨折などをした場合に、長い時間、馬がつらい思いをしないようにしてあげるのが、せめてもの心遣いと言う事なのです。
すべては、怪我をした競走馬は苦しむ姿を見たくないという部分からの判断なのです。
骨折しても復帰した馬も存在する
競走馬の骨折=致命傷とは限りません。
骨折の程度やその後の治療課程によっては、完治してレースに復帰している馬もいます。
骨折の程度がヒビ程度や部位によっては、走る事ができなくなっても、多少は自分の体重を支えるくらいできれば、ほかの病気に発展するリスクも少なく、時間をかけて回復に向かっていきます。
人間も同じですが、競走馬も動物なので回復します。
しかし、予後不良になる場合の怪我は本当に重度な骨折で完治する可能性は、ほぼ無いという場合か、回復するまでに何年もかかるといった場合でしょう。
安楽死の方法はどうするの?
現在では、安楽死の手段としては薬殺が一般的です。
出来るだけ、競走馬に苦しみを与えずに楽に天国へ行ってもらうようにする為です。
予後不良と診断された競走馬はできるだけ早く、麻酔薬、筋弛緩剤や心停止薬の投与により殺処分が行われます。
骨折している部分の痛みと、放置することによる違う病気を避ける為です。
昔は残酷ですが、国により銃による射殺も行われていました。
明治時代には馬場で観客の目の前でピストルによる銃殺が行われたこともあります。
仏教文化圏に属する日本の場合は、荼毘(だび)に付されたのち、馬頭観音に供養されます。
かつては殺処分された馬を馬肉に転用(代表例:ハマノパレード)することもあったが、現在では予後不良の場合はほぼ全て薬殺処分を行っているため、市場に流通することはない。
過去にレース中に骨折してしまった競走馬
非常に残念な事ですが、骨折が原因で予後不良になった競走馬がいます。
正直、予後不良となり安楽死させられた競走馬は数え切れないほどいます。
ここでは、特に競馬界に衝撃を与えた名馬の安楽死を紹介したいと思います。
ライスシャワー
ミホノブルボンの牡馬クラシック三冠達成を阻止しただけでなく、メジロマックイーンの天皇賞・春3連覇を阻んだ「関東の刺客」です。
1992年の菊花賞など、通算でG1・3勝を記録しています。
1995年の宝塚記念のレース中に転倒し、左脚を故障。
症状が重かったため、コース上で安楽死措置が取られました。
サクラスターオー
1987年の皐月賞と菊花賞を優勝し、牡馬クラシック二冠を達成したものの、同年の有馬記念のレース中に左前脚の故障を発症し競走中止。
予後不良の診断が下されます。
獣医たちによる懸命の治療も実らず、翌1988年5月12日に安楽死となりました。
誕生後すぐに母親を亡くし、自身もレース中の故障でこの世を去ったことから、悲運の名馬として知られています。
ホクトベガ
1993年の桜花賞を優勝したほか、帝王賞や川崎記念といった地方競馬のダート重賞を次々に勝つ、など芝・ダートで頂点を極めました。
1997年にダートの世界最高峰のレース・ドバイワールドカップに出走したものの、レース中に転倒し、左前脚を故障。
予後不良の診断を受け、まもなく安楽死の措置が取られました。
サイレンススズカ
G1勝利は1998年・宝塚記念だけですが、圧倒的なスピードで逃げ切り勝ちを決める姿に惚れ込む競馬ファンが続出しました。
6連勝で臨んだ1998年の天皇賞・秋では、単勝オッズ1.2倍という抜けた1番人気に支持されますが、レース中に左前脚を骨折し、競走中止。
後に予後不良と診断され、安楽死の措置が取られました。
競走馬の骨折についてのまとめ
今回は競走馬の骨折について記事を書きました。
競走馬は、速く走る事ができる素晴らしい動物です。
しかし、大きな身体を細い脚で支えるのは大変だと思います。
骨折により予後不良になってしまった競走馬は、安楽死されてしまいます。
しかし、それは、馬の事を一番に優先して獣医が判断しています。
レース中の怪我は見たくないという想いの方はたくさんいらっしゃるかと思いますが、どんなスポーツにもアクシデントは付き物で、競馬も例外ではありません。
特に競馬のアクシデントは競走馬の命に直結しますから、レース中に競走中止する競走馬がいると、いつもゾッとしてしまいます。
悲しいアクシデントが少しでも減って、予後不良となる競走馬が1頭でも少なくなることを切に願っています。